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ペタン、ペタンと餅をつく音が土間にひびく。毎年年末に増田徳兵衛商店では餅つきが行われるという。もちろん仕事収めというわけではない。蔵人たちは、時間がくれば櫂入れをし、麹室には仕込みを待つ麹が並ぶ。この時期、酒造りは真っ只中。休むことなく京の新酒が醸される。
元祖「にごり酒」で名高い清酒・月の桂の増田徳兵衛商店は、創業三百余年の歴史をもつ、伏見でも最も古い蔵元。小津安二郎監督の作品「小早川家の秋」のモデルにもなった由緒ある旧家だ。京の米と名水として知られる伏水で醸す「月の桂」は、京の人々はもちろん、全国にファンがいる。なかでも、「にごり酒」は、まさに米のシャンパンといえる、フレッシュでさわやかな味わいだ。
増田徳兵衛商店には、但馬杜氏を筆頭に 8人の蔵人が働く。中村茂松杜氏は62歳。この道一筋24年とおっしゃるが、その笑顔からは頑なな職人のイメージはまったくない。むしろ「酒造りの環境はどんどん変わってきているからね。それに合わせて造り方も変えていかないとね」という言葉からは、柔軟な心と溢れんばかりの酒造りへの情熱が感じられる。
そして、この柔軟さは十四代店主の増田泉彦社長からも感じられる。ドイツのワインアカデミーを卒業したという氏は、酒造りにはもちろんこだわる。が、そのスタイルはあくまでも自然で柔軟。新しい酒のジャンル開拓も必要だと言う。昔からあるいいものが基礎にあって、そこから新しいものを生み出していくことが、今後の氏の課題なのだとか。中村杜氏を「おやっさん」と呼び尊ぶその姿にも、氏の酒への思いが現れている。
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